カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 研究技術員 椎野茜

カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 研究技術員 椎野茜

Akane Shiino
東京大学大学院医科学研究科の間野研究室のもとで次世代シーケンサの技術員を勤める。2018年より、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 細胞情報学分野に異動。イルミナ社やMGI社の次世代シーケンサーのオペレーションに携わるとともにシーケンスの前処理実験を数多くこなす。

 

特殊なセットアップの必要なく実験を進めることができます

 間野研究室では、発がん原因たんぱく質をスクリーニングする技術や、がんのゲノミクス解析に有用な様々なアッセイを独自に開発している。その一方、がんゲノム研究を基礎と応用の立場から推進すべく、世界で利用が進んでいる次世代シーケンサ(NGS)とその前処理技術の活用にも積極的に取り組んでいる。椎野さんは、間野研究室が自治医科大学から東京大学に研究活動の拠点を移された当時から、海外の最新技術を使ったNGS用のライブラリ調製の実験と装置のオペレーションに携わっている。今回、Twist Bioscience社(以下、Twist)のライブラリ調製、およびキャプチャ実験について、他の前処理方法との違いからお伺いした。

「これまでのキャプチャライブラリ調製法では、操作によってライブラリ調製の出来具合、収量や質が左右されていて、煩雑な操作で時間をかけて得られるキャプチャの成功率が課題でした。Twistのライブラリ調製とキャプチャのキットを用いて、最初にワークフロー全体でプロトコルを教えていただいて、作業的にほぼ全て自分のベンチでできることが分かりました。これまでのキャプチャ法に比べて、特殊なセットアップの必要がなくなり、準備することは減りましたし、手間も減りました。」

 海外の技術導入では日本語のプロトコルが提供されるかどうか分からないタイミングで、英語のプロトコルに慣れざるをえず、また英語での技術サポートを受けるケースも多い。Twistは現在、MGIシーケンサや別のライブラリ調製キットといった、新たな技術を取り入れたNGS用前処理プロトコルについても和訳を進めている。また、重要な作業箇所について、日本語でプラスアルファで補足説明する取り組みも始めた。このように、汎用性の高いプロトコルについて和訳を行う取り組みを進めている一方、最新のプロトコルは常に英語での提供が先となる。

「海外の技術を取り入れる場合、基本的にプロトコルが和訳されて提供されていても、英語のプロトコルに全部目を通します。我々からすると英語のプロトコルが原本というイメージです。 日本語のプロトコルがあること自体は良いのですが、これまでの経験で、日本語で簡易的に訳されたり、簡単プロトコルが提供されているケースがあって、大事なニュアンスが抜けていたりすることがありました。ニュアンスが変わらないように、補足的に日本語で説明されるのは良い方向だと思います」

ライブラリ調製プロトコルは全体的にロスがなく、キャプチャ実験はすごく楽になりました

 これまでのキャプチャ実験では自動化装置を使うことが多かったが、Twistのキットを使った実験は手作業で次々と黙々とこなしておられる椎野さん。

「NGS用の前処理では過去に自動化装置を使うことが多くありました。機械が常に正常に動いてくれることを期待しているのですが、いったん故障が起きて作業効率が一気にダウンしたことがあります。機械だと融通が効かないことが多く、メンテナンスを行って、装置専用のプレートをもれなく準備して、一つでもミスが無いように細心の注意を払って高額な装置を動かしていました。Twistのキットは現在は全て手作業です。研究室全体で利用が広がっている中、各々が手作業で進めています。キット自体は新しいですが、8連のマルチチャネルピペッターで行う操作自体は従来と同じため、すごくとっかかりやすかったです。Twistのキャプチャライブラリ調製プロトコルは全体的にロスがなく、操作がより簡単になっている印象です。単純作業なので淡々と進められます。」

 キャプチャ実験手前のライブラリ調製ステップは、そもそもベンダー間で似通っており、汎用的な手順として大差がない。Twistのキットでより簡単になっているとは言え、いずれのベンダーのプロトコルでも、8連のマルチチャネルピペッターを使うことでこれまでのところ難しい作業ではないとのことであった。一方で、キャプチャ実験の作業は、かなり進展が見られたとのこと。

「キャプチャ実験の方はすごく楽になりました。これまでのキャプチャ実験では自動化に使う消耗品のチップが装置専用で、例えばバリかけがあって機械の自動操作によってライブラリの生成が左右されてしまうことがありました。Twistのハイブリキャプチャはインデックス付きの8サンプルを混ぜてからキャプチャするので、96ウェルから8サンプルづつプールした後は、1.5mLチューブでの操作になります。プロトコルでも1.5mLチューブでの実施が推奨されており、他の実験者も同様に進めています。このステップは96サンプルでも12反応で済みますし、研究室内で幾つかのプロジェクトを別々に実施しているため、さらに少ない反応数でキャプチャすることもあります。今のところ自動化の必要性を感じていませんが、自動化が必要な場合には、どのベンダーの装置を使うのかも含めて慎重に検討できればと思います。」

試薬チューブラベルなど、実験担当者にとってより使いやすい改善を期待

 最後に、試薬キットや実験操作に関して、今後Twistに期待される点をお伺いした。

「私も含めて実験を担当されている複数の方が言っているのは、試薬チューブのラベルの改良です。実験者にとって、ラベルの工夫などで中身が判断しやすくなる改善が可能だと思います。ぜひともお願いします。また、カスタムパネルの再設計を行ったり、さらにカスタマイズでスパイクインパネルやブレンドパネルなど、実験目的に応じて様々なカスタムパネルを使っているので、デザイン番号とデザイン名で上手く管理できるようになると良いですね。」

 Twistは、2021年6月、ライブラリ調製の新しい試薬キット(Twist Library Preparation EFキット、バージョン2)の販売を開始した。断片化やPCRなどの酵素類を一新し、シーケンサの読み取り長などや目的のアプリケーションに応じてDNAのフラグメントを柔軟に変更可能なプロトコルとなった。酵素類の変更にとどまらず、試薬チューブのラベル表示や、試薬量を判断しやすくする工夫も進めた。このように、試薬キットの性能向上に努める一方、シーケンサーの選択肢は更に広がっている。今後も試薬キットや使用するシーケンサーに合わせて、より使いやすい試薬キット、より使いやすいプロトコル、より使いやすいカスタムパネルの改善を実施していく。