カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 主任研究員 上野敏秀

カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 主任研究員 上野敏秀

Toshihide Ueno
東北大学大学院を卒業、自治医科大学(助教)、東京大学大学院医学系研究科(助教)を経て、2018年より国立研究開発法人国立がん研究センター 主任研究員。自治医科在籍中、ゲノムDNAを用いるエクソーム解析を進める傍ら、cDNAを用いるカスタムパネル解析による融合遺伝子の変異検出を報告(2011,Cancer Sci.)。がん研究センターでは、一貫して、がんゲノム医療に必要なコンピュータ解析ツール(変異解析パイプライン)の開発を行ってきた。現在、DNAとRNAシークエンシングデータを用いた統合変異解析ツールの開発を進めている。

ターゲットがコーディング領域にかなり絞られているエクソームパネルは解析効率が良いです

がんゲノム解析を効率良く行うためには、実験手法と解析手法の両面からのアプローチが欠かせない。上野さんは、自治医科大学で間野研究室に在籍した当時より、キャプチャターゲットシーケンス解析に必要なパイプラインをインハウスで作成・整備し、現在、最先端のがんゲノム解析に必要なツールをインフォマティクス側から推進しておられる。その間、実験手法の進歩に伴い、様々なメーカーのキャプチャ法のデータも評価されてこられた。

「これまでのキャプチャとTwistのキャプチャでは、一口にエクソーム解析と言ってもコーディング領域の周辺領域を広く含めるかどうかでターゲットのサイズがかなり異なりますが、解析パイプラインは基本的に変えていません。シーケンスリードを用いてキャプチャ性能チェックを行う際、設計対象領域の何割ぐらいをどのくらいの深度でカバーできるか(オンターゲットおよびカバレッジを)確認しています。特に使用するパネルや試薬キット、また検体のタイプが変更となる場合には重要な指標です。」

 検体のタイプがホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体から抽出されたgDNAであれば、使用するキャプチャパネルの試薬メーカーが変わっても、ターゲットサイズが変わっても(全エクソンを対象とするエクソームやオンコパネルのような比較的小さなターゲットでも)用いる変異解析のパイプラインは同一であるとのこと。その上で、Twistのエクソームパネルの利点についてお伺いすることができた。

 「エクソン周辺の広範なイントロン領域も含めて変異解析を行いたい時には、ターゲットを出来るだけ広くカバーしているエクソームパネルが望まれますが、現在進行中の多くのプロジェクトでは、イントロンまで踏み込んで解析することは少ないです。基本的にはターゲットをエクソン上に限って解析するため、ターゲットがコーディング領域にかなり絞られているTwistの既製品のエクソームパネル(Core ExomeやComprehensive Exome)は解析効率が良いです。」

シーケンサーの変更を伴う場合にシーケンスリードのクオリティに注意しています

Twistのキャプチャの最大の特徴は、既製品のエクソームパネルでも、スパイクイン方式でターゲット領域を拡張しても、ターゲット領域のシーケンスカバレッジが均一に得られることである。従って、これまでのキャプチャと比較して検体あたりのシーケンス量を減らして必要なカバレッジを得ることができる。上野さんは、様々なキャプチャパネルの解析を進める一方で、キャプチャ試薬キットのメーカーの変更、シーケンサーの変更を経験されてこられた。試薬キットやシーケンサーの変更に対して、これまで培ってこられた、がんゲノム医療に向けたクリニカルシークエンスの変異解析パイプラインをどのように変える必要があるのかないのか、一歩、踏み込んでお伺いすることができた。

「Twistのキャプチャでは、既製品のパネルでもカスタムパネルでも非常に均一なカバレッジが得られるという印象があります。ライブラリ調製法の変更については後述しますが、同じメーカーのキャプチャ試薬、キャプチャパネルでも、シーケンサーの変更を伴う場合には、シーケンスリードのクオリティに注意しています。」

 Twistは、これまで低品質でシーケンスには適さないとされてきた、分解の進んだFFPE検体に対してもPCR Duplicateが低いシーケンスデータが得られることを示している。その際、複数のインデックス付きライブラリをまとめて、マルチプレックスでキャプチャを行うことを推奨している。ただし、PCR Duplicateはシーケンサーの変更による影響も大きい。

「Twistの試薬キットでPCR Dupicateが低くなるという点については、他のキャプチャ試薬メーカーでの相違として捉えた解析は行っていません。我々が推進しているプロジェクトではFFPE検体を多く扱うため、データの解析時にFFPE検体由来と思われるアーチファクトをできるだけ取り除きたいことから、インハウスでフィルターを設計するなど試みています。塩基のクオリティが悪いシーケンスリードは解析前に取り除いていますが、シーケンサーの変更による影響が大きく、ライブラリ調製など前処理の部分で出来るだけ不要なバイアスを避けることも重要かと思います。」


低アリル頻度の変異検出の精度向上のソリューションを期待

最後に、今後Twistに期待される点を率直にお伺いした。

「普段はルーティンワーク的な解析が多いですが、新しい試みとしては分子バーコードです。インハウスで解析プログラムの整備を含めた対応を進めています。Twistがライブラリ調製などの前処理のステップでの改良を通して、アーチファクトをできる限り減らすことができれば多くの研究者にとって朗報です。最近は、がん化した腫瘍というよりは、がんになる前の状況を知りたいという要望が多く、がん化前のサンプルを見ていくと、変異アリル頻度(VAF)が高いものはほとんどありません。VAFが低いと、シーケンサーのエラーなのか、実際に検体で起きている変異なのか、区別がつかないというか、技術上の限界と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、解析前のステップで少しでも精度が上がると良いです。期待したいところですね。」

 今回のインタビューを通して、VAFのより低い臨床検体を解析する上で、キャプチャライブラリ調製、シーケンサー、データ解析、いずれの面でも改善の期待が大きいことが伺えた。現在、Twistはリキッドバイオプシーや体細胞変異の検出など、難易度の高いNGSアプリケーションでも効率的なキャプチャライブラリ調製ができるように、新しいライブラリ調製試薬キットを用いた実験プロトコルの改良やMGIシーケンサーへの対応を進めている。Twistはこのような取り組みを通して、バイオバンクに保管されている多くの腫瘍サンプルに見られるような、劣化が進み検体のDNA量が非常に限られるようなケースでも、さらに一歩踏み込んで不可能を可能にするシーケンシングソリューションの提供を目指している。