カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 ユニット長 高阪真路

カスタマーインタビュー 国立がん研究センター研究所 ユニット長 高阪真路

Shinji Kohsaka
信州大学医学部を卒業、米国 Memorial Sloan-Kettering Cancer Center の Dr. Marc Ladanyi のもとで研究活動を行い、横紋筋肉腫の臨床検体のエクソーム解析から横紋筋肉腫の約 1 割でMYOD1のL122R変異が生じていることを報告(2014, Nat Genet.)。2015年、東京大学大学院医学系研究科(特任助教)を経て、2020年、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 ユニット長に就任。ゲノミクスと機能スクリーニングを組み合わせた最新のがん細胞情報学の研究を進めている。

ユニークリードで均一なカバレッジを得られるのが大事なポイントかと思います

東大オンコパネル(Todai OncoPanel; TOP)は、東京大学大学大学院医学系研究科 間野博行教授の研究室が中心になって開発されたキャプチャベースの次世代シーケンス(NGS)アッセイ「がん遺伝子パネル検査」で、臨床実装が進められている。高阪さんはRNAパネルを含めたTOPパネルの開発に携わり、がんをターゲットとする遺伝子の様々な遺伝情報を融合遺伝子を含めて解析できることを既に報告している(2019, Cancer Science)。国立がん研究センター研究所に移られた現在、がん遺伝子パネル検査の高機能化を推進、キャプチャ法をベースとする世界最高峰の次世代包括的がん遺伝子パネル検査の基盤開発に挑んでおられる。

「様々なキャプチャ法で評価を行い、実際に自分たちが使ってみて重要と感じたのは、必要最低限の量のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体からも比較的きれいにデータが取れることです。検体の質の影響を比較的受けずにユニークリードで均一なカバレッジを得られるのが大事なポイントかと思います。50ng程度のゲノムDNA(gDNA)から高品質なライブラリ調製ができますので、臨床的な観点からも生検検体にも対応可能です。FFPE検体では、検体が古い場合は断片化が進んでいることもありますが、低品質な核酸からでも均一なシーケンスのリードカバレッジが得られます」

 NGSでターゲット遺伝子を高感度に解析する場合、マルチプレックスPCR法のアプローチ(アンプリコンベースのNGS)が伝統的に使われている。今回、キャプチャベースのNGSアッセイにフォーカスして次世代がん遺伝子パネルの開発を進めている背景をあらためてお伺いすることができた。

 「アンプリコンベースのマルチプレックスPCR法では、どれくらいの変異のバラエティが臨床検体にあるのかという正確な情報が得られません。ハイブリダイゼーションキャプチャ法は、感度でアンプリコン法に劣るかもしれませんが、必要なDNAが確保されたときにはバラエティを確保しながら評価できます。特にFFPE検体由来の核酸の品質は様々であるため、シーケンスがただ読めればよいというわけではなく、変異のバラエティを包括的に正確に評価すべきです。シークエンスデータよりライブラリの品質チェックが可能な点は、ハイブリダイゼーションキャプチャ法の方が優れている点かと思います」

実際に自分たちが使ってみて、自分たちのデータで評価するということを毎回行っています

Twist Bioscience社(以下、Twist)の国内での知名度はまだまだ低い。Twistの評判について何をどう感じられておられるのだろうか。研究室ではTOPパネルの他、カスタムエクソームパネルも使われている。今回、広範なターゲットをカスタマイズしたパネルの利用についても、その利点をお伺いすることができた。

「私たちは他のユーザーの評判を過大評価したくないので、新しい技術を取り入れる時はいつも必ず自分たちのデータで評価し、自分たちの使ってみた感覚を大切にしています。現在、私たちはTOPパネルの高機能化と、エクソームをベースとするパネルを使ったデータの取得を進めています。エクソームパネルをカスタマイズしています。エクソーム領域だけでは物足りないという研究者もいるでしょうし、今後、全ゲノム解析は必要なくても、マイクロサテライト領域など、エクソームにもう一歩踏み込んだ解析をしたいという要望もあります。キャプチャ実験を行う際、様々な研究目的に対応させるために、興味のある領域をエクソームパネルにスパイクさせることで、要望に合わせた形で柔軟に対応できています」

 Twistは「カスタムパネル」をスパイクイン方式で用いる利用法に加えて、出荷前に複数のパネルを事前にブレンドし、高品質な性能を有する「カスタムブレンドパネル」も提供している。NGSベースの品質管理によって、すべてのプローブについてバランスの取れた均質性と最小限のドロップアウトを最小限にするだけでなく、アッセイを行う担当者の実験プロセスを簡便化、時間を節約するためのマテリアルとしてブレンドパネルを供給することができる。

微量系や分子バーコードの基本技術のアプリケーションを期待

最後にTwistへの今後の期待についてお伺いした。

「もうワンオーダー、必要最小インプットのgDNAを減らすことと、分子バーコードを用いたライブラリ作製ができればいいですね。さらに、RNAをターゲットにしたワークフローが充実してくると、gDNAでは評価できないアプリケーションが広がることが期待できます。融合遺伝子を転写産物レベルで見たいという目的ももちろんありますし、DNAの変異でもプロモーター領域の変異であれば、それが遺伝子発現に影響するのかもしれない。RNAを測定することが、何かしら、がんの治療や予防予測などのマーカーに使えるのではないかと考えています。最終的にDNAがRNAにどれくらい変わっているのかというのは、DNAでは評価できない情報になりますので、発現量の解析という面でのRNAを測定する意義が、今後より明らかになってくると思います。また今後は次世代シークエンサの種類も増えていくと思いますので、例えばロングリードシークエンス解析への対応も今後求められると思います」

 Twistは、感染症関連ツールとして、トータルRNAからウイルスの全配列を効率的に濃縮する感染症パネルと実験プロトコルの提供を行うタイミングで、キャプチャベースのNGS解析を行う核酸のターゲットをRNAに広げている。MGI社のシーケンサーへの対応も開始した。今後、より少ない核酸のインプットからのライブラリ調製、さらに分子バーコードをキャプチャベースに適用したり、新たなDNAコントロールを提供することで、低頻度のアリル変異の頻度解析が必要なアプリケーションに貢献する開発を進めている。